数週間前から地域猫を見かけないのを気にしていた。推定7歳くらいのおばあちゃん猫。色がきたないから、勝手にきなこと呼んでいた。
嫌な予感はしていた。もう歳も歳だし、もしかして冬を越せないかもなあとか。
家の外から大家さんが猫たちを呼んでいる声がする。大家さんならきなこがどこにいるのか知っているかもしれない。駆け寄って行方を尋ねた。
大家さんも歳で、モゴモゴフガフガ話すものだからいまいち聞き取れなかったけれど、曰く、
「最近猫を狙う不審者がいるようで、ノミで突いたり、水をかけたりする。きなこと別の黒猫、2匹やられた。黒猫は寒いのに水をかけられて震えていた。看病はしたがダメだった。せめてと思って墓は作ったが、ひどいことをする人間がいるものだ」
ということだった。
野良猫が嫌いな人間がいるだろうとは思う。
でも、きなこも黒猫も誰に迷惑をかけたわけでもなくて、嫌われたとしても殺される理由なんてなかった。
仕事から帰ってきたらゆっくり寄ってきて、ニャンと言ってくれるのが可愛らしかった。
朝は物置小屋の上で寝ていて、たまに昼間に通りかかると路上でひっくり返っていた。いっぱい撫でさせてくれた。
ちゅーるでもあげようと思って買っておいたのに、きなこに食べてもらう前にいなくなってしまった。
こんなことになるなんて思ってなかったんだよ。寿命で死ぬならともかく、人間から悪意をぶつけられて死ぬなんておかしいよ。
たぶん人懐こいから、誰かが寄ってきても特に逃げたりしなかったんだろうな。なんで逃げなかったのさ。
きなこ!